欧州研究会議10周年記念――Beyond the first 10 years
EU News 67/2017
2017/04/05
2017年3月29日（水）に駐日欧州連合（EU）代表部にて、欧州研究会議（European Research Council、以下ERC）の設立10周年を記念するイベントが開催され、日欧の政府、学術・研究界から総勢100人以上が集まった。
開会の挨拶を述べたヴィオレル・イスティチョアイア＝ブドゥラ駐日EU大使は、日・EU両社会、ひいては全世界のためにも、基礎科学そして国際共同研究を支援することの重要性を強調。同じく3月に祝ったローマ条約調印60周年にも触れ、2つの周年イベントは、欧州各国がグローバルな連携を強化しつつも、さまざまな共通の課題に対し、運命を共にして取り組む理由や姿勢を見せる好機であったのではないか、と述べた。
次いで、文部科学省の伊藤洋一科学技術・学術政策局長が、欧州は日本にとって必要不可欠なパートナーであり、日本学術振興会（以下、JSPS）とERCの新協定により、JSPSの特別研究員を、最長1年間、欧州のERC研究チームに派遣することが可能になったことから、新たなコラボレーションの機会が生まれる、との祝辞を述べた。
続くプレゼンテーションでは、ERCのジャン・ピエール・ブルギニョン理事長が、これまでの歴史を振り返りつつ、ERCの成果や独自性、そしてグローバルな連携の強化など、今後の計画について言及した。その後、ERCの助成金を受給した日本人研究者や、JSPS-ERC協定の下、欧州に派遣されたJSPS特別研究員から、自身の体験が語られた。
その後、「ボトムアップ型研究の支援を通して、科学的ブレークスルーをもたらす」というテーマの下、ハイレベルなパネルディスカッションが行われた。セッションのモデレーターは、グローバルな頭脳循環をコア戦略として据える理化学研究所から、松本洋一郎理事が務めた。パネリストの一人として参加した内閣府総合科学技術・イノベーション会議の原山優子議員は、人類のための科学を進歩させる上で、ERCが占める重要な役割について言及し、この観点において、科学は、政治的中立性、意見の多様性、国際的協力や公平性を保たねばならないとコメントした。JSPSの安西祐一郎理事長は、2015年に日本で開催されたグローバル・リサーチ・カウンシル（Global Research Council）第４回年次会合において採択された通り、科学的ブレークスルーを支援する原則とは、多様性や柔軟性である、と述べた。また2017年度に実施される予定の科学研究費助成事業（科研費）の改革についても触れ、国際共同研究と研究責任者（Principal Investigators）の独立性を高めることが主な目的であるとコメント。その他、同年度に新たに開始される「若手研究者海外挑戦プログラム」については、博士課程の学生が特定期間、海外で共同研究をできるプログラムであると紹介し、JSPS-ERC協定の下、欧州への派遣を希望するJSPS若手研究者が今後、着実に増えていくよう願っている、と締めくくった。沖縄科学技術大学院大学（以下、OIST）のメアリー・コリンズ研究担当ディーンは、教員、研究員、そして学生の半数以上が海外出身者からなるOISTと、そこで行われている国際共同研究の環境やスピリットについて紹介。ERC助成金受給者でもある東北大学金属材料研究所の青木大教授からは、日本に帰国後、日本人博士研究員（ポスドク）を採用し自身の研究室を設立することが可能になったことを含め、ERCの支援により、いかに自身のキャリアが進展したか、などの体験談が紹介された。
ディスカッションとその後の質疑応答では、研究者の独立性、多様性の重要性や、国際共同研究、研究の卓越性についての議論が多く交わされた。
プレゼンテーションとディスカッション後に開催されたレセプションでは、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の機構長であり、内閣府、総合科学技術・イノベーション会議の非常勤議員でもある小谷元子教授から、乾杯の挨拶があり、国際研究協力の重要性と、日本人研究者のキャリア発展とグローバルな頭脳循環のためにも、ERCと日本国内における研究機関の連携のさらなる強化が図られるべきだと締めくくられた。
本イベントは、JSPS、EURAXESS Japan、およびホライズン2020 NCP Japanの協力の下、駐日EU代表部科学技術部によって主催された。
欧州研究会議10周年記念イベントの登壇者、パネリスト、主催者など（2017年3月29日、駐日EU代表部） Speakers, panellists and hosts of the 10th ERC Anniversary event, EU Delegation to Japan, 29 March 2017. URL
